向こう岸

最近はもっぱら同人イベントの参加記録

「日本と諸外国における創作表現の規制の現状と課題」に行ってきた

コンテンツ文化研究会開催の公開シンポジウム「日本と諸外国における創作表現の規制の現状と課題」(http://icc-japan.blogspot.jp/2012/04/blog-post.html)に行ってきた。会場は日比谷公園内の日比谷図書文化会館 日比谷コンベンションホールで、霞ヶ関が目と鼻の先というロケーション。18:30からとの案内だったのだが、その時刻で開場なのかシンポジウムそのもの開始なのか分からずちょっと戸惑った(実際はシンポジウム開始時刻だった)。
シンポジウムは以下のプログラムで進行された。

  1. アメリカのCBLDF(Comic Book Legal Defense Fund:http://cbldf.org/)代表Charles Brownsteinさんによる基調講演。
  2. 台湾のアニメ雑誌編集長であり台湾最大の同人イベント「Fancy Frontier」主催者でもある林 君和さんとタイ人で東大大学員博士課程のRujirat Vinitpholさんによる両国についての発表を踏まえたパネルディスカッション。
  3. 会場から質疑応答

Togetterまとめ(http://togetter.com/li/305769)がすでにあり、録画もされていたので、詳細な内容については人任せにして、自分が印象に残ったところと感想を書いておきたい。
各プログラムの内容をまぜこぜ順不同で書いている。

Charlesさんの講演ではアメリカにおける裁判の話がいくつか挙っていたが、児童ポルノ規制では最低量刑が重いために、被告にとっては判決まで闘って白黒はっきりつけるよりも、司法取引の誘惑が大きくなってしまうというのは落とし穴というか考えどころであった。また、コミックス・漫画は子どものもの、などいった色々な先入観・誤解・偏見から当局の規制が起こっている、というのは日本でもそうだが、アメリカの場合はそれがさらに根深い印象を受けた。Charlesさんの講演は英語によるもので、聞き取り易くゆっくりはっきり話していただいたとは思うが自分の英語力が足りず、オタク文化・規制問題に詳しい兼光ダニエル真さんの通訳がとてもありがたかった。
台湾でちょっと前にあったイベントのコスプレ露出で揉めた件は、今となっては特に影響はない、とのこと。もはや当事者や当局からのアクションよりも、遠くからクレームをつけてくる人に迷惑をかけられているとのことで、こういう話はどこでもありそう。
タイは1970年代ぐらいから日本のオタク系文化が入っているようだ(ウルトラマン仮面ライダーハヌマーンと共演させていることを考えると納得してしまう)。発表者ご本人も腐女子とのこと。余談としては「一休さん」が何度も再放送されているそうで、仏教国だからか。
台湾とタイはどちらもアジアということでなのか共通している点が多かった。日本作品海賊版がかなり出回っていたり、性的表現の作品は表面上は禁止されていても普通に買える、警官も結構適当、などなど。特にテレビアニメでの規制の両国での例はどちらも滑稽なもので会場にも笑いが上がり、なんというか表現規制の根本的な論理のいびつさ・おかしさを感じさせた。
表現規制反対クラスタでも意見が分かれがちなレーティングについて、Charlesさんは政府による押しつけや、あるいは供給を制限する目的で行われるのは問題だが、小売店・保護者・消費者に選択のための情報提供として行うことはあり、という意見で、これは自分の考えと同じところだ。
シンポジウムの中で繰り返し述べられていたのは、もし日本での漫画に対する表現規制が強まれば、他国でも表現規制への対抗が困難になるということであった。確かに、世界に広がる作品の内容が細るだけではなく、作品の受容のされ方に誤解を与える、他国の規制の動きへの前例を作ってしまうということで、二重三重に影響を与えてしまう。
また、少数の強硬な規制派をどうこうしようとすることよりも、愛好者・オタクを増やすなり理解者を増やすことによって味方を増やすことが大切である、ということも述べられていた。規制派への憤りを感じることは多いが、本来の目的である表現の自由を守るために何が有効か、ということを考えて行動したい。